前十字靭帯手術の前にリハビリが必要な理由とは|回復を早める重要な準備期間
手術前から進めていた可動域トレーニング。膝がどれだけ動くかを確かめながら、少しずつ柔らかさを取り戻していきました。

前十字靭帯を手術する前にリハビリが必要な本当の理由

前十字靭帯を断裂してしまい、手術を勧められたとき、多くの人がこう思います。

「どうせ手術のあとにまたリハビリをやるのに、なぜ手術前からリハビリをしないといけないの?」 「膝も痛いし、動かすのがこわい…。本当に今やる意味があるの?」

結論から言うと、前十字靭帯再建術の前にリハビリ(いわゆる“プレリハビリ”)をしっかり行っておくと、 手術後の回復スピード・日常生活への復帰・スポーツ復帰の質が大きく変わります。

ここでは、私自身の経験も交えながら、 「なぜ手術前からリハビリが必要なのか」を、できるだけわかりやすく整理していきます。 これから手術を控えている方が、「今、自分は何をやるべきか」をイメージできるようになることが目的です。

手術前リハビリのゴールは大きく2つ

前十字靭帯損傷後、手術前のリハビリで目指すゴール

  • 目標1:膝の可動域をできる限り元に近づける(特に伸び切ることと深く曲がること)
  • 目標2:落ちてしまった筋力をできる限り回復させておく

受傷直後の膝は腫れや痛みが強く、膝を曲げるのも伸ばすのもつらい状態になりがちです。 しかし、そのまま安静だけで過ごしてしまうと、膝の周りの筋肉はどんどん細くなり、 関節も固まり、いわゆる「曲がらない・伸びない膝」になってしまいます。

この状態のまま手術を迎えると、手術後のリハビリが非常にハードになり、 回復に時間がかかるだけでなく、可動域制限や歩き方のクセが残りやすくなるリスクが高まります。

受傷後に膝と筋肉に起こっていること

前十字靭帯を損傷すると、多くの場合、膝は腫れて熱を持ち、痛みも強くなります。 それに加えて、体は膝を守ろうとして動きを制限してしまうため、 「動かさない → 筋肉が落ちる → さらに動きづらくなる」という悪循環に入りやすくなります。

  • 太ももの前(大腿四頭筋)が目に見えて細くなる
  • 膝がまっすぐ伸びず、常に少し曲がったような姿勢になる
  • 正座はもちろん、浅くしゃがむことさえつらくなる
  • 膝を支える力が弱くなることで「膝崩れ」を起こしやすい

私が入院していたとき、同じ日に手術を受けた方がいました。 その方は受傷後、ほとんどリハビリをしていなかったそうです。 手術自体は同じ日・同じ主治医でしたが、その後の回復は明らかに違いました。

リハビリをしていなかったその方は、

  • 杖なしで歩き出すまでにかなり時間がかかる
  • 可動域を広げる練習で強い痛みが出て、なかなか前へ進まない
  • 退院が近づいても、リハビリ室以外では両松葉杖が手放せない

一方で、手術前からコツコツとリハビリを続けていた私は、 同じタイミングで手術を受けたにもかかわらず、 歩行練習や可動域の回復は比較的スムーズに進めることができました。

この経験からも、「手術前にどれだけ整えておくか」で、術後のスタートラインがまったく変わると実感しました。

手術前にリハビリをしない場合に起こりやすいこと

手術前リハビリをほとんど行わずに手術を迎えると、次のような状況が起きやすくなります。

  • 膝の可動域が狭いまま手術に入るため、術後も「曲がらない・伸びない膝」が残りやすい
  • 筋力が極端に落ちているため、術後の歩行練習が非常にきつく、前に進みづらい
  • 膝をかばうクセが強く、正しい歩き方や姿勢を取り戻すのに時間がかかる
  • 復職・復学・家事・育児など、日常生活の復帰も遅れやすい
  • スポーツ復帰を目指す場合、復帰時期が後ろ倒しになり、モチベーションの維持が大変になる

つまり、「手術さえ終わればなんとかなる」という考え方はかなり危険で、 手術前からの準備が、結果的に自分の未来の負担を大きく減らしてくれます。

手術前リハビリの代表的な内容

ここからは、前十字靭帯再建術の前に多くの人が行う、代表的なリハビリ内容を整理します。 実際に行う内容や負荷は人によって異なるため、 必ず主治医やリハビリの先生の指示を優先してください。

① 可動域(ROM)をできるだけ元に近づける

手術前の大きな目標の一つは、膝がしっかり伸びて、できるだけ深く曲がる状態に近づけることです。 特に「伸び切ること(伸展)」は、歩き方や立ち姿勢に大きく影響します。

代表的なアプローチとしては、次のようなものがあります。

  • 仰向けや座位で膝を曲げ伸ばしし、痛みの許す範囲で少しずつ曲がりを深くしていく
  • かかとを自分の方へ引き寄せるようにして、膝をゆっくり曲げる感覚を取り戻す
  • タオルやクッションを使って、膝がしっかり伸びる位置で軽く保持する

最初は「こんなに固くなってしまったのか…」とショックを受けるかもしれませんが、 続けていくと少しずつ動ける範囲が増えていきます。 正座までいかなくとも、 「健側と比べて大きな差がない」「日常生活で困らないレベル」を目標にしていきます。

② 筋力をできる限り取り戻す

受傷後の太ももは、驚くほど早く細くなってしまいます。 特に落ちやすいのが、膝を伸ばすときに働く大腿四頭筋です。 ここが弱いと、膝を支えきれず、術後の歩行や階段昇降がつらくなります。

代表的な筋力トレーニングの例としては、次のようなものがあります。

  • 仰向けで膝を伸ばしたままゆっくり足を持ち上げる「足上げ」
  • 横向きで脚を横に上げるトレーニング(外側・内側の筋肉を鍛える)
  • うつ伏せで脚を後ろに持ち上げるトレーニング(ハムストリングスや殿筋の強化)
  • 膝を深く曲げすぎない範囲でのハーフスクワット

ある程度動きに慣れてきた段階で、アンクルウエイトや軽めのダンベルを使って負荷を少しだけ増やしていく方法もあります。 ただし、「痛みが強く出るほど追い込む」「深くしゃがみ込む」ようなやり方は逆効果になることもあるため、 必ず専門家の指示を受けながら進めてください。

目安としては、健側の脚と比べて明らかに細さが目立たない程度まで太ももが戻ってくると理想的です。 短期間で完璧に戻すのは難しくても、「少しでも近づけておく」ことが術後の大きな助けになります。

③ 歩き方・姿勢を整えておく

前十字靭帯損傷後の手術前リハビリとして、リビングで正しい姿勢で歩く練習をする青年のイラスト。真剣な表情でフォームを意識している。
手術前リハビリでは、正しいフォームで歩き方を整えることが重要です。日常動作を丁寧に積み重ねることで回復が大きく前進します。

膝をケガすると、無意識のうちにかばう歩き方になりがちです。 そのまま手術を迎えると、そのクセが術後にも残りやすく、 腰痛や反対側の膝・足首の痛みにつながることもあります。

主治医から許可が出た範囲で、 「まっすぐ立つ」「左右の体重を均等に乗せる」「ゆっくりと丁寧に歩く」ことを意識しておくと、 術後の歩行練習にもスムーズにつなげやすくなります。

手術を選ばない場合のリハビリで意識したいこと

事情があって手術を選ばないケースでも、リハビリの基本は同じです。 可動域の確保と筋力強化に加え、 「走る・横に動く・前後に切り返す」といった実際の動きに近い練習を少しずつ取り入れていきます。

  • 正しい姿勢でのランニング(無理のない距離から)
  • その場でゆっくりと左右に体重移動し、慣れてきたら軽めの反復横跳びへ
  • 前後へのステップや軽い切り返し動作

ただし、前十字靭帯は自然には元通りに再生しない靭帯とされています。 装具をつけていても膝崩れのリスクがゼロになるわけではなく、 特に激しいスポーツ復帰を目指す場合には、再受傷の危険性が高いことも事実です。

手術をするかどうかは非常に大きな選択になりますので、 自分だけで判断せず、主治医・理学療法士・チームドクターなどとじっくり相談することをお勧めします。

「ここまでできたら手術の準備OK」の一つの目安

個人差はありますが、手術前リハビリの一つの目安としては、次のような状態が挙げられます。

  • 平地の歩行で大きなびっこが出ず、ある程度スムーズに歩ける
  • 膝の曲げ伸ばしが、健側と比べて大きな差がないところまで近づいている
  • 太ももの筋肉が、受傷直後ほど極端に細くはなく、ある程度力が入る感覚がある
  • 日常生活(通勤・通学・家事など)が、工夫すればなんとかこなせるレベルになっている

もちろん、これらすべてを完璧に満たさないと手術ができないというわけではありません。 しかし、「できる範囲でここに近づけておく」ことが、術後のリハビリを確実に楽にしてくれるのは間違いありません。

まとめ:手術前リハビリは「手術の準備」ではなく「復帰へのスタートライン」

前十字靭帯の手術前リハビリは、 「どうせまたやり直すから意味がない」「痛いし動かしたくない」と感じてしまう時期もあります。 ですが、実際には、 術後の回復スピード・可動域・歩き方・スポーツ復帰の質に、はっきりと差を生む大切な期間です。

手術前からコツコツと膝の可動域と筋力を整えておくことは、 「未来の自分を助けるための投資」のようなものだと私は感じています。

これから前十字靭帯の手術を控えている方は、 不安や面倒くささもあると思いますが、 ぜひ主治医やリハビリの先生と相談しながら、できる範囲でプレリハビリに取り組んでみてください。 その積み重ねが、術後の自分を大きく支えてくれます。


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